山形に4年ほど住んでいますが、未だに「さくらんぼもぎ(収穫)」はしたことがなく、自分には縁がないのかもなと思っていました。
ここ山形では、この時期になると、知り合いが「さくらんぼ収穫の手伝いしてきた」とか、「これよかったら食べて」と、ビニール袋にずっしりとさくらんぼをくれたりします。
山形の地元の人たちにとっては、さくらんぼはわざわざ「買うもの」ではなく、「もらうもの」という感覚なのです。
そんなさくらんぼ王国の山形なので、昨年、奥さんが知り合いの方に声をかけてもらって、「収穫したさくらんぼの箱詰め」のお手伝いを数日間したことがありました。(それだけ、周りに「さくらんぼ農家」さんが多いということです。)
朝早くに家を出かけて、毎日のように商品にはならないけれども、とてもおいしいさくらんぼをもらってきては、「今日もおばちゃんたちと話してて楽しかったよ。ほとんどが病気か墓の話だけどね。笑」と、楽しそうに僕に何があったかを話してくれました。
正直、さくらんぼを「もぐこと」も、それを丁寧に「詰めること」も、そんなに興味はなかったのですが、なんだか毎日楽しそうに話してくれるので、「来年くらいは、少し手伝ってもいいかもな」と思うようになりました。
木いっぱいに実るさくらんぼたち
今月の中旬頃に、奥さんがお世話になった方に連絡をしてみると、「大友さんは、朝早くにもぐのを手伝ってください」ということで、早朝のさくらんぼの収穫(朝もぎ)を手伝うことになりました。
集合時間は朝の5時。まだ薄暗いのかなと思っていたのですが、季節が夏至の頃というのもあって、意外と外は明るく、頭はまだスリープ状態のままで、山登り用の汚れてもいいズボンを履いて、車で農園へと向かいました。
農園は天童というところにあるので、国道13号線をまっすぐと北上するのですが、この道路は秋田の実家に帰る時の定番の道のりで、村山を過ぎるくらいまでは車の交通量が多く、そんなに運転するのが楽しい道ではありませんでした。
それでも、さすがに朝の4時台の13号線は嘘のように空いていて、右手の東の空に朝日が上ってくるのを見ながら、気持ちよく運転することができます。少しの時間だけでも、他の車のことを全く気にせずに、自分の思いのままに運転することは、とても気分がいいものです。
ちょうど30分ぐらい車を走らせ、天童の農園に着くと、お世話になる農園の方が待っていてくれました。
何度もお会いしているのですが、いつもはスーツ姿でピシッとされているところしか見たことがなかったので、作業着姿には少し違和感を感じましたが、すぐにその手際の良さを見て、「ああ、農家さんなんだなぁ」と思いました。
手短に、さくらんぼの「もぎ方」や、「どんなさくらんぼは商品にならないのか」などのレクチャーを受けて、早速、まだひんやりとした朝の空気の中で、僕の「はじめてのさくらんぼもぎ」が始まりました。
「日がどんな風に当たっているか」や、「実がどんなところに生っているか」や、「雨に当たったかどうか」などで、さくらんぼの大きさや色や形がまるで変わってきます。
一個一個丁寧にもぎ取りながら、そのことに深く関心していました。
このおいしそうに赤く実ったさくらんぼがもぎ取られる状態になるまでは、それまでにかなりの準備と手間がかかっていると、農園の方が教えてくれました。
木自体が元気に健全に育ち、葉を十分に広げ、大きな実をつけるためには、雨がどうしても必要なのですが、実が大きくなった状態で雨に当たってしまうと、実がはじけてしまうそうで、その時期にはハウスで屋根をしてあげなければいけないのだそうです。
そして、おいしそうな実は鳥たちのごちそうでもあるので、ハウスの横の部分は風通しを確保しながら、鳥が入ってこれないようにするためにネットになっています。
さくらんぼの木の下に目をやると、銀色のシートを敷いてあって、それに陽の光が反射して、実全体がまんべんなく色をつけてくれます。
それ以外にも、さくらんぼをもぎ取りやすいように、ある程度の量の葉を剪定したり、とにかくたくさん手をかけなければいけないのです。
「さくらんぼは、たくさん愛情かかってる果物なんだよ」と、言ってらっしゃいましたが、本当にそうだなと実感します。
作業中はラジオを流しているのですが、ラジオから流れてくるのは、キリスト教やら天理教のありがたいお言葉や、どこかの偉いお医者さんの病気の説明や治療法や、生島ヒロシさんの雑多なおしゃべりくらいのものですが、しばらく作業をしていると、おもしろいことが起こります。
それは、ひたすら目の前のさくらんぼを一個ずつもぎ続けていると、そのうちにそのラジオの音が遠くなってきて、完全な集中状態に入っていくのです。
「ああ、これは『さくらんぼ瞑想』なのだ」と、気づきました。
2時間ほどの収穫作業中で、その状態でいられるのは短くて15分ほどで、長ければ30分以上続くこともありますが、それがなんとも言えずに、心身ともにすっきりとします。
「さくらんぼもぎ」がシンプルに楽しいのもそうなのですが、それから「没入(瞑想)状態」に入るというプロセスがおもしろく、結局、10日間ほどお手伝いを続けさせてもらいました。
だいぶもぎ方も慣れてくると、すっとその状態に入ることができる時もありますし、そうでなくても一緒に作業しているベテランのおじいさんたちと話していると、毎日の朝の2時間はあっという間に過ぎてしまいます。
もうすぐ4歳になる息子もお手伝い
ロルフィングを仕事でしていますし、自分で一から農業をするのはハードルが高いのですが、収穫だけではなく、早朝の数時間や、午前中だけなど、これから農家さんのお手伝いができたらなと思うようになりました。(「兼業農家」というよりも、「部分農家」とでもいうか。)
そして、そのさくらんぼ収穫の作業を実際に体験できたからこそ、今年のさくらんぼがとてもおいしく感じます。
山形のさくらんぼ、やっぱりおいしいですね。
ぜひみなさんも、この旬の味を楽しんでみてください。
お世話になった農園の方と仕事の合間の一杯
Yuta